独り群せずが文庫になってた

独り群せず (文春文庫)

独り群せず (文春文庫)

けんちゃんの小説で二番目に好きなやつ(一番好きなのは道誉なり)。暑苦しい作品が多いと思われてる作家で、実際その通りなのだけど、これはあんまりそういうところが無いのがいい。

内容としては内山彦次郎に注目した小説で、大塩格之助に注目した『杖下に死す』の続編。『杖下に死す』が風呂敷を広げすぎていろいろ半端なところが多かった反省からか料理のエピソードと内山と新撰組に話を絞って非常に分かり易くなっていて、基本的には主人公光武利之(オリジナルキャラ)と内山彦次郎が読んでるこっちが恥ずかしくなるレベルでいちゃいちゃしてる小説。

現代を舞台にこういうの書こうとすると BL にならざるを得なくて、江戸時代を舞台にしてるからこそ為し得る作品なんだと思う(南北朝時代を舞台にした道誉なりは濃厚なホモ小説になってしまっているのだけど)。

どこかで読んだような話が延々と続くし、設定にオリジナリティがあるかというと全く無いのだけど、それでも読ませるのが作者の腕なんだろうと思う。岡田良之進のその後を描いているのはオリジナルといえるが、史実キャラというよりは作者オリジナルキャラになってる。

あまり若い女性にはリーチしていない作家のようだけど(ソープへ行けとかのイメージが強いせいか)、下手な BL 読んでる暇があったら独り群せずを読んだほうがよい。

さらりと新しい学説が採用されてる箇所があって、沖田総司が 1864 年の時点でもまだ元気。現在の学説では 1867 年ぐらいに沖田総司の病状が悪化し戦闘不能になったというのが主流で、これが本作でも採用されてて、従来の新撰組知識で読み進めるとちょっと違和感を感じるかもしれない。